What goes on/what's going on:2022年03月01日分

2022/03/01(Tue)

[小説] J.G.Ballard/War Fever

かつて日本だと福武書店からでてたJ.G.バラードの短編集「 ウォー・フィーバー」の中に「第三次世界大戦秘史」というお話があるんだけど、いつの間に実写化したのこれ(現実逃避)。

読んだことない人のためにあらすじ、時は1995年のアメリカ、大統領二期を務め引退していたレーガン元大統領は、認知症の療養中だったにも関わらず後任大統領の度重なる失政によって憲法修正までしての三期目に担ぎ上げられ、ついにソ連のこちらも認知症のゴルバチョフ書記長と第三次世界大戦をおっぱじめるが、周囲の暖かい介護によってアラスカとシベリアの無人地帯にそれぞれ2~3発づつ核ミサイルを打ち込んでたったの4分で終了、国民は誰も気づくことは無かったというドタバタ喜劇。

しかしこの実写化、脚本家が原作を改悪し過ぎてこのままじゃ落としどころが核2~3発ですまなそうなんですが大丈夫なんですかね(白目)。

ちなみにこの作品、米ソ冷戦がメインテーマではあるけど、生命維持装置でスパゲッティ状態のレーガン大統領のバイタルは逐一テレビで報道され国民はそれにばかり気をとられ裏で戦争が起きてる事に誰も気づかないのという描写からして、この作品が書かれた1988年当時にガンで闘病中だった昭和天皇がモチーフの作品なのよね。

かつて「朕茲ニ戦ヲ宣ス」によって上海租界で生まれた作者は幼少期を大日本帝国軍の捕虜収容所で暮らすことになったけど(後にその体験から「 太陽の帝国」を書く)、「昭和天皇がもし病床で精神錯乱をおこしたら再び世界に対して宣戦布告をするのではないか?」というバラード少年の心に植え付けられた恐怖と帝国主義への憎悪が裏のメインテーマ。

そして表題作である「ウォー・フィーバー(=戦争熱病)」では「停戦を願う気持ちにもかかわらず(中略)憎悪のために戦争が続いてる」と戦争が無くならない理由、そして「全人類はずうっといることになってるんだ」と憎悪を断ち切ることは不可能と看破してる。 まぁミレニアム単位で憎悪が絡みあってるこの世界は以下略、今回の実写化でもチェコとポーランドのロシア非難声明にきっちりドイツへの皮肉が入ってて笑ってしまった、しかもなんか80年前の記憶というより現在進行形でのドイツ憎悪が入ってる感じだよなあれ。

バラードがまだ生きてたらこの憎悪ってやつを倍々に増幅させていく寒天培地ことSNSとか動画配信というインターネッツの癌細胞ネタに、ウッキウキで新・テクノロジー三部作くらい書いてくれていただろうなぁ、惜しい才能を亡くしてしまった。